10年の学び

目次

テーマ

客観的に思考できる能力を身につけ、行動の中に思考が生きる人間になっていく

学年の特徴

10年生では思考をともなった感情がより豊かになり、判断能力がついてくる年頃です。教師は一人ひとりの個性に、今までよりも強く働きかけるようになります。

彼らの個がしっかりと歩き出せるために、生徒の自発性をまず「思考」の領域で行うことが大切だからです。明確な思考と自分で判断できる能力を育くんでいけば、好き・嫌いという感情だけに流されない客観的能力が身についていきます。ですから授業の中では、思考を通して認識できる分析議論や意見交換が重要になってきます。また、自分の思考が外の世界で通用するかを試すために、測量実習や職業実習などもあります。

学年ごとの教科

生物

生物の授業では、心と精神をともなった人間とつなげながら、人体器官の構造を理解していきます。身体がどうなっているのか、人間全体の内部の構造をより深く知ることで、自分の心の中で起こっていることも学ぶことができます。生理学的・心理医学的人体器官の考察がテーマです。

地学

地理地学では、「生命に満ちた有機体」としての地球に取り組み、海流、気流、気候領域や上空の気圏領域など、地球の流動性と関係するすべての内容に取り組みます。生物で行ったようなかたちで地球を人体器官のように考察していくのです。地球に流れる大きな循環を学び、それらに対する感覚ができると、地球をとりまく流れや生物生息圏全体、またエコロジーを理解する基盤ができあがります。

物理

物理の授業では力学を扱い、鋭い観察を通して自然法則をより洞察し、理解していきます。等速直線運動から、等加速運動、そして重力加速運動、自由落下など学びます。そのあと、質量と引力を学び、円運動の法則に取り組んでいきます。計算練習もしながら、実践的な例を挙げて、常に状況を把握しながら思考できるように、学びを進めていきます。

歴史

10年生の歴史では、もう一度古代にさかのぼります。その理由は、生徒たちが内面化するため、もう一度自分の根源を知りたいと思うようになるからです。「地球の地理的関係の中で発展する人類」というシュタイナーの言葉通り、歴史は古代から始まります。遊牧民から定住へ、ペルシャ、メソポタミア、エジプト、ギリシャを取り上げていきますが、最初に地質的、地理的背景に取り組みます。ここでも人間と地球の関係が深く体験できるでしょう。そして徐々に人類が氏族団体から“個”として発展していく過程をたどっていきます。

国語

文学作品でも“個”の取り組みを扱います。国語のエポック授業では、親族同士の結束の崩壊から、個性を持った人間の生まれる過程に取り組みます。その中心に来るのがドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』や平家物語です。これらの作品を通してまさに親族、血のつながりから個性を持った人間の誕生までを体験できます。これらは生徒の“個の誕生”を支える取り組みになります。さらに「詩学」や「日本詩歌の伝統形式」にも取り組み始め、「流れる時間の芸術」としての詩歌のさまざまな形成方法を学んでいきます。ここでは、内面を豊かにする響きやリズムに重点を置いていきます。

造形美術

造形美術では「アルプスから北の芸術」がテーマになり、デュラー、ホールバイン、グリューネヴァルト、レンブラントについて考察していきます。画家の絵の調和の取り方、その調和形成の理解、芸術的作品の持つさまざまな法則は、10年生の持つ、“理解し、認識したい”という要求に力強く応えてくれるでしょう。

オイリュトミー

オイリュトミーでも、国語と同じように動きを通して詩歌に取り組んでいきます。全体でひとつのフォルムを動いていくグループ的要素が大切になり、生徒自らがフォルムを発展させていきます。音楽オイリュトミーではベートーベンのソナタなどの大作に取り組みます。

英語

完了形を学びます。時間、事態の経過形は、正確に思考する能力を呼び起こさせます。また、ある状況とその状況、事情への理由づけを表現する課題は、英語で思考する力を養います。
さらに、英語の詩を朗唱し、韻を踏んだり、フレーズに対する感覚をしっかりと養っていきます。最後には自分で選んで練習した詩をそれぞれが朗誦します。

音楽

音楽は真の音楽理解のための音楽批評、判断の基盤をつくり上げていきます。例としては、合唱曲や、オーケストラの演奏の練習をしていきます。和声学は今まで学んだ基盤をさらに発展したかたちで広げていきます。

自然科学全般

数学、物理、化学、射影幾何学、そして測量実習の授業の進ませ方は基本的に同じです。
物理の授業を通して自然の法則をより理解し、それを通して更に力学の理解への道のりが生まれます。若者たちは明確な観察力とともに実験から考察へ、さらに法則へ向かい、定義と計算に進んでいきます。明確な観察と論理的結びつけ、それぞれの因果的関係を通して、分析的思考がさらに訓練されていきます。

測量実習

測量実習は大地を測り、計算し、記録していく取り組みです。この教科は、自分の理想や思考を現実化できるかが大きなテーマになります。2週間で、地球のある一部の場所と密接に取り組む過程を終えた生徒は、その場所がまるで自分の部屋になったような体験ができます。技術的にも地図製作においても正確さ、精密さを習得できます。この実習と深い関係を持つのは「三角法」です。三角法は数学のエポックで取り組んだあとに、実際に測量実習で応用していきます。また、余弦定理は物理の授業で静力学上の計算をしていくときの助けになります。

職業実習

測量実習と同じように、自分の今までやってきたことや自分の思考が実際に外の世界で通用するかを試すもうひとつのイベントが職業実習です。生徒たちが一般社会で3週間過ごすことで、自分が培ってきた生き方、言葉遣いや仕事の仕方が通用するのかを試します。

数学

律動周期や累乗計算や対数の取り組みの中で、新たな数学の法則を学びます。また、無理数と通約不可能なものから黄金率の法則を学んでいきます。さらに三角法の学びは測量実習へとつながります。

化学

化学では「酸」と「アルカリ」の対極性について学びながら、塩の結晶形成についても取り組んでいきます。さらにこの授業は幾何学の授業と深く隣接しています。

コンピューター情報処理学

コンピューターの基本要素に取り組み、簡単なコンピューターの作成を通して、物理と数学を実践応用していきます。また、現代の社会の中心となったコンピューターの課題とその意味と責任ある取り扱いを学んでいきます。

応急処置

生活能力を身につけたいという欲求を持つこの年齢の生徒のために、10年生では応急手当の実習が行われます。おぼれたとき、ひどい怪我をしたり、呼吸困難や心臓停止になったときなど、その時々の相応しい手当て学ぶことで、実生活の中での確かな自信が生まれます。

芸術実践

織物では紬から作業を始め、さらに織物へと発展させていきます。マフラーなどの実用的な作品を仕上げ、すべての製造過程を生徒が体験することで、論理的思考の基盤が出来上がります。版画制作では、自分でモチーフを選び、デザインして計画的な作業を続けていきます。絵画では、層技法などの高度に完成した、技術を習得します。

学年ごとのイベント

測量実習、職業実習

10年生の人間学の観点からの概要

――客観的に思考できる能力を身に着ける
論理的、因果的結論にたどり着く
悟性的判断から概念的判断へ

――世界の中にある法則を分析的に認識する

純粋に物質的に取り組み目覚めた意識を持った地球市民になる。世界の中のさまざまな法則を理解する
若者の興味を外に向かって広げていく

――認識の確信性:「世界は真実である」

――正確に行動する
注意深く行動する
行動の中に思考が生きる
生活実践能力を身に着ける

――自分の行った行動に対しての責任を持てる能力を発展させていく

10年生の大きなテーマは、自分の思考が実際に通用するのか、実践をともなっているのかを、相手の話を聞きながら社会的なやり取りの中で試していくということです。
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