9年の学び

目次

テーマ

思考に構造を与え、大地とつながりながら理想を現実にしていく力を育んでいく

学年の特徴

8年間のクラス担任が終わり、9年生に上がってきた生徒たちは学校生活の中でも新たなスタート台に立ちます。

そのスタート台とはクラス担任に導かれていた時代を終え、自分でしっかり判断しながら思考し自分を導き始めるというスタート台です。とはいえ、9年生はまだ自分で判断できる年齢ではありません。判断したいと強く望みはしますが、その判断は、あくまで主観的で非常に偏っています。自立した内面やそれにともなった知性もありますが、まだバランスがうまく取れていないのです。そんな彼らの偏りを補うために、「思考」があります。考えることが心にバランスを与えるので、しっかりと根を下ろした思考をしていけば、次第に感情の調和は取れていくでしょう。それが「思考に構造を与える」ということの意味です。自分の理想や理念は現実化できるのか? 自分の夢は実現できるのか? 自分で自分の道を切り開こうとする若者の前には、さまざまな問いが生まれます。ですからカリキュラムでは、その問いに答えるために、理念がどのように社会に根づいたかを学んでいきます。

学年ごとの教科

歴史

近代から現代を学んでいきます。ここでの目標は、この時代の基本となる「時代を導く理念」「その時代のテーマ」を生徒に伝えていくことです。フランス革命、アメリカ独立戦争、第一次、第二次世界大戦を通して現れてくる問題に取り組むことで、現代への理解を生み出していきます。どのように理想を現実化するのか? または理想を現実化できるのか? まさにこの年齢に若者に強く働きかける授業なのです。

物理

人間の発明の道を中心に取り組んでいきます。蒸気機関、機関車、エンジンなど、18世紀、19世紀の技術がテーマになります。技術は、「誰かが実際に思考して現実化した結果」です。そのため、本当に理想を現実化できるのか? と問う生徒たちに、人間が理想に向かってしっかり計画を積み重ねれば、確実に実現できるということを理解させることができます。他にもクーラー、冷蔵庫、ドライヤーなど、日常生活に使われている電気製品の物理学的な機能を学んでいきます。

数学

高等部の数学は、8年生までの内容とはまったく違う領域に入ります。9年生は組み合わせ論から確率論への道のりが主な内容になります。この組み合わせ論を通して生徒たちは、数学的にも驚くべきたくさんの可能性があることを体験します。これによって、《人間にはたくさんの可能性がある》ということに気づく体験をするのです。しかも組み合わせ論は論理的思考の絶好の練習場です。さらに、すべての種類の周期的な計算法、面積計算、立体計算などにもくわしく取り組んでいきます。

幾何学

幾何学においては、8年生で学んだプラトン立方体をさらに発展させていきます。平面を頭の中で想像し、傾斜図の描写、垂直的平行投影に取り組んでいきます。似たような形で円錐曲線幾何学も進めていきます。この取り組みは楕円のダイナミックな表象運動から出発し、放物線と双曲線を発展させいく動きのともなった幾何学です。

生物学

人間の感覚知覚器官に取り組んでいきます。これは人間の世界とのかかわりに、直に密着している組織について学ぶということです。身体の内部構造を学び、成長していく自らの身体に客観的に取り組むことによって、生徒はしっかりと自分自身とつながれるようになります。自分の身体が気になり、コンプレックスを抱く時期だからこそ、自分の身体を受け入れることは、非常に重要です。

地学・地理

8年生では人間の骨格を学びましたが、9年生は地球の骨格である「地学」を学びます。まずは、地球全体を“丸ごと”見ていきます。核、マントル、マグマ、地殻、地震や火山の仕組みなど、地球の構造について学び、さらにはこれからどのように動いていくのかを、地球を生きた生命体として見ていきます。地質構造上的、地形学的過程を通しての専門的理解は、この年齢の生徒たちに方向性と信頼性、確実性を与え、骨格形成も含めて成長期のまっただ中にいる彼らを内面からも支えてくれます。同時に、非常に爆発しやすい感情を持つこの年齢の生徒たちに実際の自然現象である火山を学ばせることで、人間の感情体を地質学的に学ぶこともできます。

化学

化学では、素材の発生過程を理解する取り組みを行います。燃焼による生産物、乾留による生産物、さまざまな炭化の効果、有機物の腐敗、分解化は腐植土の形成にいたるまでを学んでいきます。さらに石油の成り立ち、植物の変容プロセスも主要なテーマとなります。

国語

国語の授業では、2つの主要なテーマを学びます。最初のエポック授業で生徒は、重要なドイツ古典期の人物であるゲーテやシラーなどの偉大なる伝記に取り組み、彼らがどのように理念を現実化していったかを追っていきます。ここでは友情や人間同士のつながりがテーマになります。ゲーテとシラーのように対極的で異なった価値観を持つ者同士でも、思考の領域で理解し合えること、そしてより高い理念でつながっていくことの大切さを学ぶのです。
9年生は、感情的に好き嫌いや共感・反感を示す年齢です。だからこそ、気が合う・合わないはあっても、本当の人間のつながりは理念でのつながりである、ということを教えていく必要があるのです。
もうひとつのテーマはユーモアです。ユーモアは思春期の生徒が物事から距離を置くことを助けてくれます。また、ユーモアを通して、鋭い批判や自己認識を和らげることができます。笑うということは、その活発な心の動きから、一見突拍子のないものを克服する個性的な人間の活動です。もちろん笑いと対極的な心の動きである“悲しみ”についても学んでいきます。これらの両者の性質に取り組むことで、魂の普遍性を体験し、生徒たちはより客観的に自分自身に向かい合うことができるようになります。

英語

9年生では、英語の文法を新たな形で体系的に学んできます。しかも何度も繰り返すことで、日本語にはまったくない英語的な考え方に親しみ、母国語に距離を持つことができます。また、発明家や技術者の伝記やさまざまな時代の偉大なる人物の伝記、時代のパイオニアたちの人生を英語で学んでいきます。

音楽

偉大なる作曲家の伝記を通して、不死の作品への興味をわかせていきます。国語の授業でも出てきたように、ここでもモーツァルトとベートーベンという、理想の音楽を実現化した2人の古典派の人生に取り組みます。バロックではヘンデルとバッハを比較することができます。同時に作品の例を通して、バロックと古典派の識別にも取り組んでいきます。さらに9年生からは高等部の合唱団や高等部のオーケストラが始まります。

オイリュトミー

オイリュトミーの授業では、特別に9年生の教科と関係のある時代の詩や作曲に取り組み、客観的な動きとフォルムをつくり上げていきます。意識的に芸術的な要素に取り組みますが、さらにユーモアの要素も多様に取り入れていきます。

農業実習

9年生では農業実習を行います。3週間、生徒は朝から晩まで農家の家族の中で働きます。この年齢の生徒は、議論や討論が達者になりますが、その反面、身体が一番動かない、何もしたくない年齢です。そんな時期だからこそ、純粋に農業という身体を動かすことを通して、手足を活発化させることができます。大地とつながることは、生徒たちの意志を強化することにもつながり、自分の求める理想を実現する力を生徒たちに育くんでいきます。

美術

エジプト美術のファラオ像やピラミッドの構造を観察し、それがなぜ美なのかを観察します。エジプト美術の真髄である「永遠」に触れ、当時の人間の意識を理解していきます。古代ギリシャ美術に進むと、今度はエジプトのような絶対服従の神ではなく、人間や思考がテーマになります。そこでは永遠ではなく「一瞬」が重要になります。その後、ルネサンス期には個の意識が芽生え、そして、ガンダーラ美術から飛んで日本の仏像へと移行していきます。それらの学びはすべて、人間の身体、自分の身体を受け入れるため授業と言えます。

芸術実践

繊維がテーマになり、浴衣製作など、自分で型を作って製作した衣服製作に取り組みます。籐製作においては、さまざまな日常品を製作していきます。籐かごを製作することで、内的空間をつくることがどれほど大変な作業なのかという体験をします。同じように内面の空間を、陶芸制作の中でつくっていきます。作業を通して上下左右のバランスが培われます。白黒線描では、具体的にコンテで風景を描いていきます、闇の色である黒を使えば使うほど、よりはっきりと光が描かれていく体験をします。コンピューター製作では、初期の二進法の巨大な計算機を製作し、基本的にコンピューターはどのような構造になっているかを根本的に学びます。

学年ごとのイベント

農業実習

9年生の人間学の観点からの概要

――思考に構造を与える
知性を発展させる
因果的つながりを形成する。
感情的判断から悟性的判断へ

――すべてを見抜く力を養っていく
発見から発明へ
全体的つながりを理解する

――周りへの興味を発展させる
たくさんの知識を得る
技術を地水火風という4元素以外の人間が創った「第五元素」として学ぶ
「現実世界になった思考」は何かに取り組む
文化を創造する人間と世界の多様性の体験

――実践的な結果に導く理想と理念を知る
若者の心の力になる偉大なる人物の伝記

9年生の学びでは、思考に構造を与え、大地とつながりながら、意志を強化することが大きなテーマになります。15歳頃は、自分の中でこうなりたいという理想が生まれる年齢です。その理想を実際に現実化できるという助けを授業の中でしていきます。大地とつながりながら、自分の身体とつながりながら、自分の中にいろいろな可能性があり、やろうと思えばなんでもできるという感覚を持てるようにするのです。
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