12年生の人間観とカリキュラム
12年生の授業カリキュラムは12年間の成長段階をまとめるように人間、自然、地球、宇宙という包括した全体像が生徒の前に現れます。
生物
生物の授業では、去年積み上げた内容と生徒のもつ能力を通して、生物すべてを包括させ、まとめる取り組みを行います。高等植物を含む植物学と、全動物界を包括した動物学から、人間への展望に向かっていきます。低学年と中級学年では、育ちゆく子どもたちが信頼できるクラス担任から人間、動物学、植物学、鉱物学と段階ごとに自然界を降りていくように学びました。しかし高等部ではまったく逆の道をたどります。単一の生命から始まり、生物界とそれを含んだ自然界の全体像の中で、人間の成長というテーマに向かって学びを深めていきます。この内容は、生徒が自分の人生のテーマを見つける意味も内包しています。
地理
地理もすべてをまとめます。生徒はもうすぐ選挙権を持つ大人へ向かって自分の目を世界情勢や自分の将来に向けていきます。しかも前年でやった法の問いについてのテーマを、もう一度取り上げる準備ができています。授業の中心テーマは地球全体の人類の文化的違い、さらにそれにともなった社会的政治形態への理解です。それを通して7,8年生のテーマがさらに発展し、地球全体を思考の力で理解していきます。
英語
12年生の生徒は英語を通して自立した言語様式と思考様式を作り上げていきます。英語圏文化の主題テーマが言語を通して現れてくるということです。そのように深い文化に対する理解力から世界歴史が生まれ、それと同時に自分の国の文化や言語にさらに深い理解力を得ていきます。
音楽
20世紀の音楽を「自立した音」として理解し説明できることが12年生の音楽の中心的テーマです。ですから生徒は自分が生きている時代の現代音楽に意識を持たなければいけません。現代音楽の作品を通して現代の社会状況を体験させるのです。
国語
文学史の展望台を現代にまで持ってきます。それを通して人間の意識発展を知る手がかりとなる文献の解読能力を、つけさせていきます。展望台は国内文学だけにとどまることなく、外国文学にも広げていかなければなりません。19世紀20世紀の世界文学に反映される現代の人間像を理解していく手がかりとして、ゲーテのファウストと濃密に取り組んでいきます。この作品を通して現代の科学と学問の成果と限界を分析していきます。
歴史
人類の歴史の展望台は、自分の立つ位置とさまざまな民族の文化的つながりを理解していきます。現代を生きる自分に対する意識を発展させるには、自分の今いる位置を発展のプロセスと理解し、このプロセスのもつさらに深いモチーフを追求していくことです。それぞれの文化圏の、さまざまな歴史の発展に対する理解を通して、人間文化の多様性を理解するきっかけが生まれます。内容は近代から現代までのテーマを持った大きな考察をしていきます。 社会問題(今日においてのグローバル化問題)自然との関係(テクノロジーと自然)人間像への問い(人権問題)をさらに取り組みます。この授業を通して歴史的関係の思考が哲学的問いへと活発に動いていきます。ですから歴史の授業は、問題の多い社会の中で生徒が絶望するのでなく、個の力が社会に作用する可能性を、歴史の中の特別な人物例を取り上げることを通して、生徒に明らかにしていくことにあります。
社会
政治への理解能力(最高裁判所、共同条約、国会の協議内容)をつけていくために、18世紀から21世紀の現代の福祉国家にいたる国家と法と経済の発展に取り組みます。市民権と人権の発展を通してそれらが成り立っていく過程を具体的に知り、それを基にして現在、世界の中で起こっているさまざまな対立関係とその原因を追究していきます。いくつかの文化圏の問題を例に取り上げ、分析していくことを通して、人類の大きな未来像が解き明かされていきます。
化学
今までの因果的分析要素を持ち、化学的モデルを表象させる物質化学について話し合う中で、生徒をプロセス化学に導いていきます。たんぱく質のさまざまな種類から、現象的で精密な取り組みが理解され生化学(バイオケミー)が前面に出てきます。環境を害する化学ではなく環境と人間を癒す化学です。
テクノロジー
テクノロジーが化学の授業に継続して行われます。重点は≪科学的テクノロジー≫です。または11年生で取り組んだコンピューターテクノロジーをさらに発展させていくこともできます。前者においてはプラスチックの製造過程と工業に取り組むことができ、同時に環境汚染問題、廃棄物問題、再処理問題にも取り組みます。さらに労働者の作業場の健康問題についても話していけるでしょう。そこでは実質的問題を解決するために新たなテクノロジーを探し、その有効性を調べていきます。
後者のコンピューターテクノロジーの場合は、コンピューター情報学の中で生徒は企業に役に立つ機能を持った新しいプログラムを起案していきます。このように若者は人間が機械の奴隷になるのではなく機械をつかさどる精神的存在だということを体験していくのです。
物理
12年生では光学に入ります。観る行いと現実に現れる現象の思考的考察を通して≪光の本質≫への関係を見つけていきます。さまざまな立場に立って観点を考察していくことがここでの重点になっていきます。
造型美術
光学と同時進行して美術ではゲーテの色彩学を実践しながら学んでいきます。しかも美術では絵画的に彫塑的に人間のいちばん個性の現れる部分を作成していきます。それは人間の頭部です。絵画、彫塑または石製作を通して生徒はその人間だけが持つ唯一の頭蓋骨のフォルムとそれにともなった顔の表情を作成していきます。
数学
微分と積分の純粋なる数的体験を行っていきます。数列の極限値は中断しないプロセスの代表と理解していきます。「微分商」の概念の取り組みを通して、数学の中での新しい領域を生徒に体験させなければいけません。2つの差分法の列の商は、2つとも0に対し、まったく新しい結果が生まれます。これは応用できるようになるだけでなく、見抜き、経験され、体験されなければいけません。そうしたら初めて計算されたものを、図形に置き換える試みができます。“方程式からフォルムを見つける”“フォルムから方程式を見つける”という作業を通して生徒の中に内的能動性と数学に対する高度な理解が生まれます。
そしてこれは応用物理にとっても不可欠な内容です。この関係において方程式は、応用物理においてもさまざまな形で活用されていきます。光学、電気学、力学(宇宙航空学)などにおいてです。そこでは質と量が離れていきます。積分の根本的取り組みの中で生徒は高度な数学の領域においても対極になる数学的計算過程があり(微分する)同時に数学的世界理解の新たな領域があることを体験します。
演劇
一人ひとりが全体に責任を持つ取り組みとして、協力して同じ目標に向かっていく練習の場として、個々の個性の大きな成長のチャンスの場として12年生のクラスの劇は大きな意味を持っています。劇、オペラ、ミュージカル、カバレット(風刺寸劇)の発表を通してクラスは最後に共同の可能性を追求していきます。言葉、しぐさ、音楽、歌、オイリュトミー、演出、舞台装置、照明、プログラム、ポスター。公演に向けてすべてのことを自分たちで行い、一人2役演じることも場合によってはやっていかなければいけません。
建築史
12年生にふさわしく美術においても総合的テーマを取りあげます。芸術の女王といわれるユニバーサル美術としての建築史が中心に来ます。芸術の女王である建築史は、芸術のエポックの頂点です。そして芸術の意味と本質を理解する取り組みです。芸術についての哲学≪美学≫も12年生の大切なテーマになってきます。
卒業論文発表会
12年生では卒業にともなって生徒が1年間に取り組んだテーマを発表していきます。実践的芸術的テーマや理論的テーマを生徒は選び、授業と並列して自分の力で研究していきます。誰でも担当になる一人の教師をつけ、年間の間に担当教師に中間報告をしていきます。発表はそれぞれ理論的部分と実践的部分に分かれ、理論的部分においては講演という形で参加者の質疑応答もしていきます。この12年生の研究発表は公に行われ、ヴァルドルフ学校の生徒の高度な能力と自立性を外に向けてアピールしていける12年生になくてはならない大きなイベントのひとつです。
12年生は12年間のヴァルドルフ教育を凝縮した代表的学年であり、≪人間≫という教育目標に寄与する学年なのです。1920年、ルドルフ・シュタイナーは次のように表現しています。 「人間は認識しながら世界と自分を見つけ、自分自身を認識する中で人間を通して世界が現れてくるのです。」
2008年度 卒業論文発表会の様子はこちらから。
<人間学を通しての12年生の教育目標>
―物質的観察や事実を見極めることを通して本質を理解する。
―さまざまな事柄同士の外的内的な関係を見つけ、それをもとに世界の中に営む法則を理解していく理念を創造しながら進め、世界と自分の理念の総合作用を思考を通して探求する
―ひとつのプロセスの中で前進と後進をし、生徒の内的能動性を促進する。
―因果的分析的考察から目的論的な考察に進んでいく 「法則と必然性」「自由と責任」をひとつに考察する取り組みをしていく 人間と自然から人間と社会を見通す。 全体と個の取り組み
―運命への問いを解明する 人類の問いが生まれる
―12年生は限界まで歩む存在でなければいけない。問いを持ち、自分の考えを変えられる練習をするそれは人生を通した学びの前提条件である。

