12年の学び

目次

テーマ

認識しながら世界と自分を見つけていく。
さまざまな事柄同士の関係を見つけ、
それとともに世界の中に営む法則を理解していく。
限界まで歩む存在として、人生を通した学びの前提条件をつくる。

学年の特徴

12年生は最終学年ということで、すべての総まとめであり、集大成の1年になります。

そのため、授業カリキュラムは生徒たちの12年間の成長をまとめるように、シュタイナー学校の重要な教育観点である、人間、自然、地球、宇宙という包括した内容になっています。生徒たちは、時間的にも空間的にもさまざまな観点から全体を見通す力がつき、また、なにか一方に偏ることなく理解しようとする力が出てきます。素直さや寛大さというかたちでも、成熟の様子が現れます。

12年生には何と言っても、3大イベントである「論文発表」「オイリュトミー公演」「演劇発表」が待っています。非常に忙しい一年になりますが、これらを通して表現することで、自分がよりはっきりし、将来の進路が見えてくるでしょう。

学年ごとの教科

生物

これまで積み上げた内容と生徒の持つ能力を通して、生物すべてを包括させ、まとめる取り組みを行います。高等植物を含む植物学と全動物界から、人間の展望に向かっていきます。低学年と中級学年では、人間、動物学、植物学、鉱物学と段階ごとに自然界を降りていくように学びました。しかし高等部では、まったく逆の道をたどります。単一の生命から始まり、生物界とそれを含んだ自然界の全体像の中で人間の成長というテーマに向かって学びを深めていきます。この内容は生徒が自分の人生のテーマを見つける意味も内包しています。


地理

地理もすべてをまとめた内容になります。生徒たちはいよいよ大人になる日が近づき、自分の目を世界情勢や自分の将来に向けていきます。授業の中心テーマは、地球全体の人類の文化的違い、さらにそれにともなった社会的政治形態への理解です。それを通して地球全体を思考の力で理解していけるようになります。


英語

12年生は英語を通して自立した言語様式と思考様式をつくり上げていきます。英語文化圏の理解がテーマになり、他の文化に対する深い理解力を育くんでいきます。文化に対する深い理解力から世界歴史が生まれ、それと同時に自分の国の文化や言語にさらに深い理解力を獲得していきます。

音楽

自立した音としての20世紀の現代音楽に取り組みます。12音技法の学びの中で現代に生きる精神を音楽的観点から洞察していきます。そのために生徒は、自分が生きている時代の現代音楽に意識を持たなければいけません。現代音楽の作品を通して現代社会状況を体験させるのです。

国語

現代までの文学史を通して、人間の意識発展を知る手がかりになる文献の解読能力をつけていきます。そのためには国内文学だけにとどまることなく、外国文学にも広げていかなければなりません。19世紀20世紀の世界文学に反映される現代の人間像を理解していく手がかりとして、ゲーテの『ファウスト』に取り組んでいきます。この作品を通して現代の科学と学問の成果と限界を分析していきます。

歴史

自分の立つ位置とさまざまな民族の文化のつながりを理解していきます。現代を生きる自分に対する意識を発展させるには、自分の今いる位置を発展のプロセスと理解し、このプロセスの持つさらに深いモチーフを追求していくことです。それぞれの文化圏のさまざまな歴史の発展に対する理解を通して、人間文化の多様性を理解するきっかけが生まれます。内容は近代から現代までのテーマを持った大きな考察です。社会問題(今日においてのグローバル化問題)、自然との関係(テクノロジーと自然)、人間像への問い(人権問題)に取り組んでいきます。この授業を通して、歴史的関係の思考が哲学的問いへと発展していきます。ただし、ここでは問題の多い社会に絶望するのでなく、歴史の中の人物例を取り上げることで、個の力が社会に作用する可能性を明らかにすることが目的です。

社会

政治への理解能力をつけていくために、最高裁判所、共同条約、国会の協議内容など、18世紀から21世紀の現代の福祉国家にいたる国家と法と経済の発展に取り組みます。市民権と人権の発展を通してそれらが成り立っていく過程を具体的に知り、それを基にして現在世界の中で起こっているさまざまな対立関係とその原因を追究していきます。いくつかの文化圏の問題を例に取り上げ、分析していくなかで、人類の大きな未来像が解き明かされていきます。

化学

今までの因果的分析要素を持ち、化学的モデルを表象させる物質化学について話し合う中でプロセス化学を学んでいきます。たんぱく質のさまざまな種類から、現象的で精密な取り組みが理解され、生化学(バイオケミー)が前面に出てきます。これは、環境を害する化学ではなく環境と人間を癒す化学のことです。

テクノロジー

テクノロジーが化学の授業に継続して行われます。重点は「科学的テクノロジー」です。または11年生で取り組んだコンピューターテクノロジーをさらに発展させていくこともできます。前者においてはプラスチックの製造過程と工業に取り組むことができ、同時に環境汚染問題、廃棄物問題、再処理問題にも取り組みます。さらに労働者の作業場の健康問題についても話していきます。また、実質的問題を解決するために新たなテクノロジーを探し、その有効性を調べていきます。後者のコンピューターテクノロジーの場合は、コンピューター情報学の中で生徒は企業に役に立つ機能を持った新しいプログラムを起案していきます。このように若者は人間が機械の奴隷になるのではなく、機械をつかさどる精神的存在だということを体験していきます。

物理

12年生では光学に入ります。観察と思考を合わせながら、光の本質を探っていきます。光を波として理解し、さらに粒子として理解します。そしてそのあとは、実際に光とは何かをいろいろな角度から研究します。このような観察と思考が最大限に働く学びの中で、さまざまな立場に立って観点を考察していくことが教育の大きな重点になっていきます。


造形美術

12年生の絵画では、人間の個性が一番現れる部分として、ポートレートを作成します。人間の本質とそれに伴った顔の表情を作っていくことによって、自分の中にある、個性と向かい合っていきます。

さらに卒業芸術プロジェクトとして、ランドアートに取り組みます。野外に出て深く自然の声に耳を傾けながら、想像力を働かせ、自然がもたらす地水火風の素材で、芸術作品を制作します。卒業前にクラス全体で協力しながら、自然とそして世界と積極的につながっていく創造的プロジェクトです。

数学

微分積分で計算されたものを図形に置き換える取り組みを行います。方程式から図形を見つけ、図形から方程式を見つける中で、数学に対する高度な理解が生まれます。そしてこれは応用物理にとっても不可欠な内容になります。この関係において、方程式を応用物理においてもさまざまな形で活用していきます。光学、電気学、力学(宇宙航空学)などです。積分の根本的取り組みの中で生徒は、高度な数学の領域においても対極になる数学的計算過程があり、同時に数学的世界理解の新たな領域があることを体験します。

建築史

最終学年である12年生にふさわしく、美術においても総合的テーマを取り上げ、ユニバーサル美術としての建築史を中心に学んでいきます。総体的芸術の理念として、すべての芸術の包括的形として、芸術の女王である建築史は芸術のエポック授業の頂点にやってきます。これは芸術の意味と本質を理解する取り組みでもあります。芸術についての哲学や美学も12年生の大切なテーマのひとつです。

自然観察実習

「人間としての自然をとらえる力」
12年生では今まで学んできた生物、地学、地理をすべて応用しある一定の期間、野外で自然界の植生を集中的に観察します。気温や降水量だけでなく様々な観点を取り入れながら、なぜ同じ植物が場所によっては姿形が変化するのかを考え、クラスで討論し実践的な生物学の力を身に着け、世界中の自然界の法則につながる大きな手掛かりを築き上げていきます。

今までの実習場所:北海道知床、北海道羊蹄山、伊豆の大島など

12年生 ヨーロッパ美術旅行とオイリュトミー公演ツアー

12年生ではオイリュトミー公演をドイツのベルリンとハスフルトそしてニュルンベルクで公演します。これらの学校は東京賢治シュタイナー学校の姉妹校であり、生徒はそれぞれの学校にホームステイをします。その中で交流し学校全体とも関係を持った後、ドイツのミュンヘンを皮切りにイタリアのボーツェン、ベニス、フィレンツェ、ローマ、パリへの美術研修の旅に出ます!様々な国の違いや文化の違い街並みの違いに驚きながら、美術の深まりと異国の情緒に包まれて、生徒たちの中に芸術的想像力の芽が育まれていきます。

12年生の3大イベント

12年生の論文発表や演劇、オイリュトミー公演は、一人ひとりの個性を大きく成長させるチャンスです。生徒の高度な能力と自主性をアピールするヴァルドルフ学校の大きなイベントです。

卒業研究論文発表(7月)

12年生では卒業にともなって生徒が一年間に取り組んだテーマを発表していきます。生徒は、実践的芸術的テーマや理論的テーマを選び、授業と並列して自分の力で研究していきます。発表はそれぞれ理論的部分と実践的部分に分かれ、理論的部分においては講演というかたちで参加者との質疑応答も行い、全体で1時間の発表になります。この論文発表は公に行われ、ヴァルドルフ学校の生徒の高度な能力と自立性を外に向けてアピールできる、12年生になくてはならない大きなイベントのひとつです。

オイリュトミー公演(10月)

12年生は、全員でオイリュトミーの舞台をつくります。12年間の学びの集大成として、ソナタや交響曲などの大きな作品に挑み、大勢の観客の前で発表します。

卒業劇(1月末)

一人ひとりが全体に責任を持つ取り組みとして、また、協力して同じ目標に向かっていく練習の場として、12年生が行う卒業劇は大きな意味を持っています。劇、オペラ、ミュージカル、カバレット(風刺寸劇)などの発表形式を選び、クラス全体で共通の可能性を追求していきます。演出、舞台装置、照明、プログラム、ポスター製作など、公演に向けてのすべての取り組みを自分たちで行い、場合によっては1人2役演じることもあります。

学年ごとのイベント

演劇の発表
オイリュトミー公演
卒業研究論文発表
ヨーロッパ美術旅行(3週間)…ドイツ、イタリア、フランスの三か国を巡ります。
自然観察実習

12年生の人間学の観点からの概要

――物質的観察や事実を見極めることを通して、本質を理解する。
さまざまな事柄同士の外的内的な関係を見つけ、それをもとに世界の中で営まれる法則を理解していく。また自分の理念を創造しながら進め、世界と自分の理念の相互作用を思考を通して探求する。
――ひとつのプロセスの中で前進と後進をし、生徒の内的能動性を促進する。
――因果的分析的考察から目的論的な考察に進んでいく。
12年間のヴァルドルフ教育を凝縮した代表的学年であり、人間という教育目標に寄与する学年です。1920年、ルドルフ・シュタイナーは次のように表現しています。

「人間は認識しながら世界と自分を見つけ、自分自身を認識する中で人間を通して世界が現れてくるのです」

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